「するめいか」に見るUGCの現状と展望。

さて、この議論を始める前に、皆さんに「UGC…User Generated Contents」というコンセプトを知っておいて貰いたいと思います。

UGC (user-generated content)

ユーザー作成コンテンツ / ユーザー生成コンテンツ

 プロの作り手ではなく、一般の人々によって作成されたさまざまなコンテンツの総称。特にブログ・SNS・Wikioedia?などに書き込まれた文章、ファイル共有サイトにアップロードされた画像・写真・音声・動画・アニメーションなどのオンライン・コンテンツをいう。

 従来から電子掲示板やディスカッショングループなどで一般の人々が情報発信・交換することができたが、最近ではインターネットのブロードバンド化および各種デジタル技術の低価格化などから、少ない資金でも音声や映像を駆使したリッチ・コンテンツを制作・配信できるようになり、多くのコンテンツが公表されるようになった。

 こうした中で写真共有サイト「flickr」、ソーシャルブックマーク・サイト「del.icio.us」、動画共有サイトYouTube」、SNSサイト「MySpace」、百科事典サイト「Wikipedia」などが隆盛を極めており、それらをくくる言葉として UGCに注目が集まった。

 UGCの中には玄人はだしのものもあるが、実際には玉石混交で「一般メディアのコンテンツに比べ、品質が保証されない」「著作権法に違反するものがある」などの批判がある。

 CGM同様にビジネス/マーケティングの観点からも注目されるが、それとは別にシチズンジャーナリスト/パブリックジャーナリストによる草の根ジャーナリズム、インターネットを使った市民・選挙活動(ネットルーツ)、オンライン民主主義の文脈で語られることもある。

ーーー@情報マネジメント用語辞典より抜粋。







するめいか」という個人制作のアニメーション作品が大きな話題を呼んでいます。この作品は、1週間に1回のアップロードを1クール続けていくという、テレビアニメとまったく同じ手法を用いています。しかし、再度強調しますがこれは「個人制作」の作品です。スポンサーから提供を受けることもなければ、出演者にギャランティーが支払われることもないーーいわいる、「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」です。


そのようなバックグラウンドが存在するにも関わらず、何故この作品は登場し、人気を博しているのか?その理由を探ると同時に、この作品を通じて、昨今のUGCムーブメントについての考察を織り交ぜながら、問題提起をしていく所存であります。その予備知識として、制作者のルーツ氏と、ニコニコ動画における彼の活動の紹介から始めたいと思います。


ニコニコ動画における「ゲーム実況」


このジャンルの登場以前は、インターネット上のゲーム動画といえば、いわゆる”神プレイ”をそのままYOUTUBEなどにアップするといった、比較的簡素な内容となっていました。しかし、そういった動きも、インターネットの登場以前は「ゲームセンターCX」など、一部のマニアックなテレビ番組や、雑誌の投稿欄などに限られていました。


ーーもっとユーザー目線でゲームプレイを共有したい。


そのような需要がユーザーの間で生まれ始めていたかどうかは分かりませんが、「ゲームセンターCX」自体が、「フジテレビCS放送フジテレビTWO」というマイナー局での放送だったにも関わらず、相当な人気を誇っていた様子はwikipediaの当該項目の異様な充実度から伺えます。実況動画といったジャンルが誕生した正確な時期は分かりませんが、少なくともYOUTUBEが日本で普及し始めた06年頃には既にその原型らしきものはYOUTUBEにおいて確認されていたようです。このジャンル自体、ゲームメーカーから発売されたゲームソフトを前提とするという点で、初音ミクといったvocaloidのような完全なUGCとは言えないでしょう。ここでは過度な言及は避けますが、このジャンルのバックグラウンドには”エミュレータ”という極めてグレーな側面があり、加えてニコニコ大百科の当該項目ににあるとおり、


『なお、実況の有無に関わらずゲームプレイ動画は著作権の問題においてグレーゾーンに存在する。権利者が比較的寛容なため現在は数多くのゲームプレイ動画が存在するが、一方で社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会が『無断でゲーム画面をインタ−ネット上にアップロードすることは著作権の侵害にあたる (http://www.ihokamo.net/school.html)』、と明言しており、新作ゲームを中心としたゲームプレイ動画が少なからず権利者削除されていることも知っておきたい。投稿者や視聴者はこのことを理解した上で実況プレイ動画を楽しむべきである。』

との明記があり、かつての”アニメ狩り”のようにならないために実況動画というコンテンツにはまだ解決すべき問題が少なくありません。しかし、今現在数多くのゲーム実況動画がネット上にアップロードされ、人気を博している理由としては企業側の「宣伝効果が高い」といった、権利者と消費者のwin-win(どちらにもメリットがある状態)な関係が挙げられるでしょう。


そんな中、「中二の頃作った黒歴史RPGを実況プレイするぜ」という、自分がかつて制作したゲームを自分で紹介しながら実況するという、一風変わったアプローチでデビューし、一躍人気を博した実況プレイヤーがいます。実況の途中で、自らを”ルーツです”と名乗ったその青年は、アップロード後、持ち前の歯に衣着せぬ物言いと、誰もが赤面するような自分の”黒歴史”をネタに実況するという実況スタイルですぐに話題になり、その存在感を確固たるものとしました。


◆「するめいか」の誕生。


原作は、同氏が「コミックバーズ」「WEBマガジン冬幻社」で連載中の4コマ漫画。同誌の出版社、冬幻社は「WEBマガジン冬幻社」において、実況動画で人気の実況プレイヤーの連載を提供するなど、ラディカルな活動をしています。詳しくは下記のITMEDIAの記事を参照されたし。


【WEBマガジン冬幻社】

http://webmagazine.gentosha.co.jp/


【ゆるアニメ『するめいか』の作家ルーツ氏にインタビュー! 「早朝の総武線で……」】

http://news.livedoor.com/article/detail/4263206/


【日々是遊戯:「ニコニコ動画」の有名実況プレイヤー4名が、Webマガジン幻冬舎で連載開始】

http://gamez.itmedia.co.jp/games/articles/0904/14/news070.html


そんな中、ルーツ氏は

『最近web漫画を描いてるんだけど、ディズ二ーからアニメ化の話が来なかったので、自分でアニメ化することにしたよ。普通のアニメみたいに毎週土曜に一話ずつ更新していきます。』


と、「Live2D」というアニメーション制作ソフトを利用し、「自分の作品を自分でアニメ化」という斬新な試みを敢行。


【Live2D − 3Dとは異なるアプローチによる本格的な立体表現】

http://www.live2d.jp/


舞台は同氏のホームグラウンドの江東区亀戸。背景はデジタルカメラの動画機能で撮影したといいます。アニメーションキャラクターの「サっちん」と「ミっちょん」が不自然な程リアルな背景をバックに、クスッとしてしまうテンポの良いやりとりを繰り広げる、どこかアンバランスだけど、何故かこれ以上なくマッチしている、このまったく新しい作品は、多くのファンを獲得しました。


◆UGCとしての画期性。


僕がこの記事を書くきっかけとなったのは、この作品のある画期的な試みです。それは、「アニメというジャンルを完全にUGC化した」という点です。今まで、UGCはいわゆる「N次創作」と呼ばれるーー「コンテンツ産業論」の言葉を借りればーー「上流」と呼ばれる作品をユーザーが本来と違った形で消費し、共有し、それを伝播させていく「MAD」「同人誌」「東方project」「歌ってみた」「描いてみた」などのジャンルが主流でした。しかし、昨今の「vocaloid」のように、ユーザーが「N次創作」の「上流」たり得る作品ーーつまりはオリジナルということなのですがーーを発表しているのは、UGCというジャンルの展望として大きなムーブメントであると言えそうです。


つまり、何が言いたいかというと、UGCはマネタイズ(利益を上げられること)可能なのでは無いか、という事です。もちろん、ここでのマネタイズの主体は、作品のクリエイターのことを指します。今まで、UGCと呼ばれるコンテンツ群は、クラウドコンテンツとして、若者の圧倒的支持を集めてきました。その何よりの理由が「無料」で「ジャンルが豊富」で「質が高い作品がある」ということであると思います。


イラストSNSサイトpixivを例に挙げますが、pixivのランキングの上位を覗けば、本屋で売っていたら迷い無く買ってしまうような質の高い作品が、数多く存在します。しかし、クリエイター達はそれを無料で、しかも競うように投稿しています。彼らの中にはそれを生業としている才能ある人たちもいるのですが、何故彼らは無料で公開を続けるのか。その理由について、僕たちクラウドコンテンツに日常的に触れている世代には、以外と素直に分かるのではないでしょうか。これについて、「ウェブ人間論」の中での、ブログについての梅田望夫氏と平野啓一郎氏の議論は参考になりそうです。

梅田:むしろブログの本当の意味は、何かを語る、何かを伝える、ということ以上に、もう一つあるのではないかと感じています。ブログを書くことで、知の創出がなされたこと以上に、自分が人間として成長できたという実感があるんです。僕の本業は経営コンサルタントで、しかも自分のブログを始めた時期は、シリコンバレーでの経験も約十年間積んで、日本のエスタブリッシュメント社会からの認知も高まり、成功したという実感を持てていた時期でした。ブログを書き始めたとき、最初は自分の中のどこかに、「シリコンバレーでずっとITの未来について考えてきたプロ中のプロである僕が、無料で、毎日書くんだから、読者はありがたいと思って読むに違いない」という意識があったんです。(中略)

平野:その感覚があるから、既存のメディアで書いている作家の多くは、ネットで無料で書くことを躊躇しているんでしょう。企業で働いている人が、仕事とは関係のない自分の考えや思いなんかをネットで表現する、というのとは違って、作家は表現それ自体が仕事なわけですから、その上更にネットで表現するということがどういうことなのか、イメージとしてピンと来ないというのもあると思います。

梅田:ところが、ブログをやり始めて数ヶ月たった時に、オープンソースのことを書いたんですね。(中略)そういう人の一人から「この部分は浅い」という内容の批判的なトラックバックをされたんです。最初は驚いたし、反発する気持ちも持った。でもその後、何回かやりとりをしているうちに、会ったこともない彼との信頼関係がネットで醸成されるのを実感できた。(中略)ネットの向こう側にとんでもない広がりがあるということに心の底から気づいたんです。それからは、モノを書き始めた頃のような謙虚さを取り戻して、勉強する量も増えたし、何事においてもじっくりとより深く考えるようになった。またそういうことが読み手にも伝わって、「ああ、こいつは成長しているな」と思って貰えるというプロセスも、全部見える形で公開されていたんですよ。

ーーー出典『ウェブ人間論』(梅田望夫平野啓一郎著、新潮新書

つまり、プロフェッショナルでない人たちが、主観的な作品をネットという客観性の極限にさらす事によって、自らのポテンシャルを向上させていこう、という考え方です。僕がこのブログを遊戯王関係のブログとしてスタートした時も、全く同じ動機でしたし、このおかげで僕のリンクに限らず、色々な人の刺激的な意見を聞けました。

話を戻しましょう。

pixivからクラウドUCGの現状を考察しましたが、こんどはそのマネタイズ化の可能性についてです。UGCのクリエイター達は皆それを「楽しいから」やっている訳です。「何かを作って、他人から評価されることが凄く楽しい。でも、実際はそれでご飯が食べられるわけではない…。」今現在のクラウドUGCムーブメントは、そういうアンプロフェッショナルたちのジレンマから生まれているのです。彼らは決してプロフェッショナルではない。プロフェッショナルの人たちに比べれば、技術や才能や人脈も無いかも知れない。しかし、ここまでの規模となると、彼らは独自のコミュニティとネットワークを生成し、その中には上記の研磨プロセスを経て、自然発生的にプロフェッショナル級の実力があるクリエイターが現れてくるのです。


「N次創作」の「上流」たる作品がUGCから生まれてくる。


そういう人たちが、もっと自由に活動できるようにできないだろうか?


というのが、本稿の問題提起です。

事実、ネット上のUGC文化から、それを職業にしていく人たちも出てきています。しかし、彼らはメジャーレーベルのレコード会社や出版社などに”青田刈り”されているに過ぎない。せっかく”UserGeneratedContents”という素晴らしい理念を抱いてクラウドで活動するクリエイター達が、どうしてわざわざ前世代的なメディアに出向しなくてはならないのだろうか?ここではあまり具体的な提案は出来ないのが残念ですが、これに共感してくれる方がいたらな、と思います。


「振り込ませろ詐欺」というタグが存在します。

『振り込ませろ詐欺とは、お金を払いたくなるほど素晴らしい動画などを公開した作者に対する敬意と感謝の気持ちを示すタグである。「振り込めない詐欺」よりお金を払いたい意志が強い、「振り込めない詐欺」の発展系である。』

もちろん、これは単なる衝動的な感動に過ぎないのかも知れません。しかし、自分のお気に入りの作品に、お金を払ってもいいという人は存外多いのではないでしょうか。wikipediaの運営が募金で成り立っているように、UGCのコンシューマーからクリエイターへの支援が、手軽に行えるようになれば、クラウドUGCの分野も、「単なるオタクの産物」から、自分の作品が正当に評価されうるビジネスの場になり得るのです。


特に「するめいか」で注目したいのは、舞台である”亀戸”という実在の地域が、確実に有名になっている、という事です。本来なら、地域の行政の観光課がやるべきPR政策が、こういうジャンルの作品で確実に成されています。本当ならば、地域行政がこういったムーブメントに投資すべき(というか、した方が費用対効果が目に見えています)なのですが、果たしてどうなるのでしょうか。企業や行政といったエスタブリッシュメント層からの支援に加えて、もう一つ必要不可欠であると感じるのは、コンシューマーからの活動支援です。これは、ネットコンテンツの今現在の課題である、電子決済のファシリテーションという問題への解決策も提示してくれるかも知れません。


ネットコンテンツがしばし最もマネタイズが難しい市場だ、といわれる原因を、僕は「電子決済へのユーザーの抵抗感」だと考えています。現実で100円の買い物をするのと、ネットで100円の買い物をするのには金銭感覚に圧倒的なズレがあるのではないでしょうか。前者は、ぽいとお賽銭に投げ入れることができるくらい。後者は、フリーソフトウェアの有料版が100円であったとき、「なんか面倒くさいな…無料版でいいや」と躊躇してしまうくらい。ネットでの電子決済は主にクレジットカードや電子マネーiTunes cardなど、なにかと不便を被る機会が少なくありません。それがネットコンテンツのマネタイズの障壁になっているのではないか、と思います。


◆終わりに。


さて、思ったより長い文章になってしまいましたが、僕がこの文章で伝えたかったのは、UGCは大きなソーシャルムーブメント、並びにビジネス市場となりえるのではないか、ということです。インターネットは個をエンパワーメントし、その可能性を広げてくれる。これから、もっともっとインターネットをつかって、”リアル”に影響を与えるクリエイティブなムーブメントが出てくることが楽しみで仕方ありません。


ではまた。KeroKeroKeroP☆