アニメの絵コンテを取り巻くいろいろな現状

まずはこれを見てほしい。

アニメの絵コンテはその作家の個性がにじみ出てて面白いな
http://blog.esuteru.com/archives/2252011.html


実はここ数ヶ月授業という名目でアニメの絵コンテについて調べ物をしていたので、こういうスレッドをみると「ふふん」とうれしくなる。

そもそも絵コンテってなんやねん

…という人もいると思うので一応解説。アニメを観ている人でも意外と原画と絵コンテを間違えている人もいるので。まずは例によってwikipedieaから導入分を引用。

絵コンテ(えコンテ、continuity)は、映画、アニメ、テレビドラマ、CM、ミュージックビデオなどの映像作品の撮影前に用意されるイラストによる表であり、映像の設計図と言えるものである。


簡単にいえば、映像作品を作るときに、撮影に入る前にほしい映像をカットごとに書きだして、4コマ漫画のようにした資料のことですね。コンテとは英語でcontinuity、つまり絵の連続という事になります。アニメや映像が1秒24コマの絵の連続と考えれば、それのもう一段階下、ということになりますね。

ちなみに、原画は絵コンテより後の作業工程で、絵コンテをもとにもう1段階実際のアニメーションのカットに近くなります。原画は後に彩色し、セル画のもとになるので、絵コンテよりかなり丁寧に描かれているのが特徴と言えます。しかし、この段階ではまだキャラクターたちは動きません。絵コンテ・原画はアニメーションの起点となるカットをピックアップしているため、1枚1枚違うカットが描かれています。アニメの制作ドキュメンタリーなどで、アニメーターの方達が薄い紙をぺらぺらめくりながら作業している姿を観たことのある人はたくさんいらっしゃると思いますが、あれは原画よりさらにあとの「動画」という作業工程で、その作業をしている人を「動画マン」と呼びます。去年の夏にNHKで特集されて話題になった金田伊功さんも動画マンのひとりですね。

余談ですが、よく「アニメーターの賃金が安いから、労働環境を改善しろ!」という意見がよく聞かれますよね。実は、アニメーターの仕事というのは歩合制が一般的で、うまい人ほどページ単価が高く設定されたりするのです。ですから、アニメーターの人たち全てが薄給で過重労働を強いられているという印象は間違いで、売れっ子にもなると年収が1000万円を超える人も珍しくないとか。いずれにせよ、大多数の若手アニメーターの方達が薄給で働いているのは事実なのですが。

さて、アニメ制作について説明していると長くなってしまうので、あとは省力しますが、
アニメのワークフローについては、以下をみるといいでしょう。

アニメはこうやって創られている
http://www.depth-of-field.jp/main/vol006/focus/03_page02.php

意外と手に入らないアニメの絵コンテ

みなさんは先期テレビ放送していたアニメの絵コンテを持っていますか?

一般的にアニメの絵コンテというものが出版物という形で世に出回ることは驚くほどありません。一昨年、細田守監督の「サマーウォーズ」の絵コンテが、劇場公開と同時に発売され、人気を博しましたが、それはとても珍しいことで、細田監督の絵コンテ集を買って、初めて生の絵コンテに触れたという方も多いのではないでしょうか。

細田監督の絵コンテは、他にも「ぼくらのウォーゲーム」「時をかける少女」が出版されており、アニメ評論家の氷川竜介氏も、自身のブログでとりあげています。

http://hikawa.cocolog-nifty.com/data/2007/05/post_6a0b.html

しかし、ジブリなどの有名スタジオが制作したアニメ、しかも劇場版をのぞけば一般に公開されているアニメーションの絵コンテがファンの間に流通することはほぼありません。原画や設定資料、背景などの美術資料はファンブックなどで一部が取り上げられることがありますが、絵コンテを1作品分読むとなると、どこで読めばいいのかわからなくなってしまいます。

某アニメ制作会社の方にメールで質問を行ったところ、以下のような回答をいただきました。

ーーどうして、絵コンテ集を一般に公開・販売しないのでしょうか。


弊社はあくまでも広告代理店や放送局などより依頼を受けて作品を制作するアニメ制作会社であり、作品における産物(脚本、絵コンテ、原画、動画、背景、設定関係の資料、デジタルデータ、等々)についての版権、著作権を有しておりません。よって弊社が独自に絵コンテ集のような出版物を発行
するのは違法行為となります。これはテレビやビデオまたは映画作品でも同じであり、また殆どのアニメ制作会社の作品も完全なオリジナル作品以外は同様の扱いであると理解して下さい。著作権は、原作の出版社、原作者、放送局、広告代理店などが通常の場合有しています。(マルシー表記にある法人や個人)
つまり、現在発行され合法的に販売されている絵コンテは、その権利を有する法人や個人が出しているものなのです。

ーー御社が過去、特に数十年前に制作したアニメーション作品の絵コンテは、現在どのように扱われているのでしょうか。


ある程度古いものまで保管してありますが、処分されているものもあります。
以前は、制作が終わったあとの作品の資料に対する価値観が、現在のように確立されておらず割といい加減なところもあったようです。勿論、コピーといえど勝手に売却するのは違法です。


ーーアニメファンの中には絵コンテを読んでみたいというニーズもあると思うのですが。


極一部のファンの中には欲しい人もいるのでしょうが、多くの場合(大ヒット作以外の作品)、制作や販売のインフラを整備して人件費等をかけてまで販売しても、採算がとれるものは極わずかではないかと個人的には思います。ヒット作とは言え、ドラえもんポケモンなどの視聴者が絵コンテなどの資料を購入するかというと全くそうではないように、作品内容が購買力がある層に、且つ所有欲が満たされるような資料でないと商売的には厳しいという事です。


まず1つ目の質問から。
これに一番驚いたのですが、そもそも絵コンテなどのアニメの制作資料の著作権はアニメ制作会社に帰属していないということ。普通に考えれば製作委員会(おそらく出版社でしょう)にそういった資料の権利が帰属するというのはなんだかおかしな気もしますが、とにかく実制作側がどうこうできる問題でもないみたいです。

次に2つ目の質問。
過去のアニメの絵コンテの取り扱いについて。
制作会社内部でも以前は意外と適当に扱っていたようです。
もう1社から頂いた回答では、その会社ではすでに過去の絵コンテもすべて電子化し、社内でアーカイブ化が済んでいるとのこと。どうやら会社によって違うみたいです。しかし、日本は毎年200を超えるアニメーションを制作し、その総製作時間は2000時間を優に超えます。その中で描かれた絵コンテは推算ですが500,000枚ほどではないかと思われます。それらのほとんどが陽の目を見る機会がないのですが。

最後の質問。
要するに、採算がとれそうにないから売らないということみたいです。
当たり前と言えば当たり前ですが、それでもほしいという層がいるということは気に留めていただいてもいい気がします。その顕著な例を以下に挙げます。

http://ekizo.mandarake.co.jp/auc/itemInfo.do?itemId=03002775930100030


この記事を読んでいる時期によってはこのリンクは有効でないかもしれませんが、上記のリンクはまんだらけが運営するアニメの制作資料のオークションサイトです。そのなかで、昨年放映され大きな反響を呼んだAngel Beats!の最終話?の絵コンテが出品されています。

開始価格は1000円ですが、3日を残して落札価格は3300円。おそらく3日後にはかなりの値段につり上がっていると思います。以前はとある科学の超電磁砲の絵コンテが7000円くらいで落札されていました。

つまり、ほしい人はそれだけの値段をだしても買いたいということです。

しかし、重要なのはそれだけではありません。
上記の回答をよく読んでみてください。”勿論、コピーといえど勝手に売却するのは違法です。 ”とあります。amazonで検索すればすぐに分かることですが、出版社から発売されている絵コンテ集は、ほとんどないのに、一番最初に取り上げたスレッドや、まんだらけオークションでは絵コンテの発売されていないはずの絵コンテが数多く見受けられます。

これはなぜか?
大いに考えられる理由は、制作資料の横流しです。

そもそもこれらの制作資料(おそらくコピーでしょうが)を所持しているのはアニメ制作会社の人たち、もしくは制作に関わった誰かしら以外に考えられません。

ですから、少し前に西尾維新原作の「刀語」の制作資料がwebから流出したというような制作側に過失がない場合をのぞいて、製本されたアニメの絵コンテが一般に出回ることはありえないわけです。アニメ制作会社様の回答にもあるように、著作権を有していない(絵コンテの発売の許諾を著作権者からうけていない)わけですから。

アニメ「刀語」 制作会社が制作資料の流出を公表
http://www.animeanime.biz/all/2010010801/

しかし、現実としてまんだらけだけでなくYahoo!などのオークションサイトでは毎日多くのアニメ作品の絵コンテが落札されている。中には絵コンテだけでなく、複製が困難なセル画もあるようです。これらのC2C取引が違法かどうかは分かりませんが、少なくとも、それらの出所は違法なものがほとんどだ、という事です。アニメ制作会社にコネがあってもらった、くらいなら許されるかもしれませんが、それを転売するという行為は道徳的にどうなんでしょうね。制作スタッフがオークションに出品していれば、それは完全に著作権法違反ですし。

まんだらけの場合は実店舗で買い取ったものをネット上で販売しているというようですが、僕は古物営業法には詳しくないので、今年の頭にまんだらけまんだらけオークションの法律的位置づけを問い合わせたのですが、「電話でなくメールで質問してくれ」と言われたにもかかわらず、依然として返信はきていません。まぁ、そんな暇ないといわれてしまえばそれまでですが。

絵コンテも、立派なコンテンツたりえる

ながながと続けてきましたが、僕が言いたいことは、

「絵コンテも、コンテンツたりえる」

という事です。下書きといって発表しないでおくには実にもったいない。
絵コンテはアニメの元の元となるコアの部分ですし、そのほとんどが監督によって作画されています。上記のスレッドの表題にもなっているとおり、監督の色がとても反映されるコンテンツなのです。アニメの技法というと、原画や動画・彩色などに目が行きがちですが、それらは全て監督の絵コンテに基づいているわけであり、絵コンテはアニメ制作のあらゆる技法が詰まっていると言っても過言ではないわけですね。そういう観点から見れば、監督のファンには垂唾の一品ですし、他のアニメ監督からすれば大きなヒントになりえる訳です。

職人気質が強い日本のアニメ業界において、絵コンテは門外不出の技法と言えるかもしれませんが、日本のアニメ業界全体を考えれば、これからの若い人材の育成が重要になってくるわけですよね。

ですから、絵コンテに限らず、アニメの制作資料というものはもっとオープンにされていいと思います。

これから韓国・台湾・中国などのアジア諸国のアニメ制作技術の台頭を考えれば、アメリカをはじめとする3Dアニメに押される日本の2Dアニメ業界のボトムアップを図るという意味でも、アニメ業界のオープンイノベーションは起こってもいい。

そして、いいアニメがたくさん出てきて、アニメが日本の主要産業になれば、グローバル化に揺れる21世紀の日本も、文化産業大国として十分世界に通用すると、僕は思うんですけどねぇ。

ま、いち大学生がそれなりにアニメ業界の次のビジネスモデルを考えてみても、これくらいしか思いつきませんでした、ということでお別れしたいと思います。ではまた。