E★エブリスタとpixivが見据える、インキュベーションプラットフォームとしてのUGCコミュニティの未来

今年に入ってから、色々コンテンツをとりまく環境がどんどん変化しているという雰囲気を日々肌で感じていたのですが、今回少し時間もできたので、2010年上半期に出てきた新しいコンテンツの在り方を、何回かに分けてご紹介させていただきます。

まずは、今年の春に誕生した新しいUGCメディアから話を始めましょう。

  • E☆エブリスタ



小説や漫画投稿、人気作家には報酬も DeNAとドコモ合弁「E★エブリスタ」

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1004/01/news090.html総合UGCメディア「E★エブリスタ」をグランドオープン
ーケータイ総合雑誌「E★エブリスタプレミアム」を創刊ー

http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2010/05/31_00.html


これは結構ニュースになってたので知っている方も多いと思います。

E☆エブリスタは今年4月にdocomoDeNAが合弁で立ち上げたサービスです。


個人的に一番驚いたのは、この会社、自社のサービスのことを、おおぴらに「総合UGCメディア」と呼んでいるところなんですね。いままでUGCサービスは山程ありましたが、UGCという言葉自体バズワードなわけで、それを運営側が自称するところがなんか可笑しかったw

  • 動き始めた「ネット発リアルへ」

さて、サービス面の解説にうつります。


エブリスタは、他のUGCサービスと同じようにユーザーが作品を投稿し、ユーザー間でそれらを共有するサービスとなっています。


とまぁ、ここまでは今までネットの藻屑に消えていった数多くの投稿型サイトと変わらないんですが、エブリスタが新しかったのは、”UGCサイトでありながら、金銭的インセンティブを堂々とアピールした点”です。


エブリスタは、開設当初から、「エブリスタ小説大賞」というコンペティションを開催することを銘打ち、その賞金にかなりの金額を提示しました。参加表明をして、エブリスタ内に自分の作品(ここでは小説)を投稿すると、審査の結果によって、賞金と書籍化(冬幻舎)がなされるようです。

僕はこういった、ネットで活動しているクリエータの活動をリアルへコンバートさせる動きのことを「ネット発、リアルへ」と呼んでいるんですが、こういった動きは、他のUGCサービスでも生まれてきているらしく、ご存じイラスト投稿サービス「pixiv」でも、こういったコンペは定期的に行われていて、今現在だと講談社主催のイラストコンテストが行われているようです。



ですが、両者は動きとしては似ているんですが、やはりベクトルが異なっています。どういうことかというと、前述の通りエブリスタが賞金(=金銭的インセンティブ)を大きく前面に打ち出しているのに対して、pixivの方はそうではないですよね。イベントの要項に目を通してみても、賞金とか賞品についての記述はまるで見受けられなくて、実際『何のイベントなんだ』と思うところもあったり(笑)

こういうところに、”お絵描き”という文化、そしてその担い手である”作者”という存在を本当に大事にしているpixivの理念が表れていますよね。


…とか言ってるうちに、つい先日pixivが小説投稿機能を実装するということで話題になりました。


pixivが小説投稿を始めるにあたり、ざっとサービス概要を眺めてみたのですが、これが結構面白い。


小説の投稿・閲覧方法などはご存じの方も多いと思いますが、僕が注目したのは、pixivもエブリスタと同様に出版社と提携して小説大賞を開催するという点です。エブリスタと異なり、pixivでは独立のコンペティションを行うのではなく、角川が運営する小説大賞の応募がpixivでも可能、という形のようです。

  • 次世代UGCコミュニティはクリエータの為にどうあるべきか


これをみて、次世代のUGCサービスのカタチの1つが定まってきたな、という印象を受けました。


「ネットで活動するクリエーターを、いかに”リアルへ”送り出すか」


これがAIR CONTENTSの大きなテーマだった訳ですが、今まではやはり「ネットに本当に優れたコンテンツなんてあるわけない」という意見がどうしても幅をきかせていたのもまた事実です。


しかしながら、UGCの本質は”コンテンツ”であり、最も価値があるのはやはりその作品自体なんだと思うんです。優れた作品には、優れた才能と、制作に費やされた膨大な時間があるわけで、そういう作品は、もっと今より正当な形で評価されるべきです。


だからこそ、「ネット発、リアルへ」というテーマにおける”正当な評価手段”として、エブリスタ、pixivの動きはとても価値があるんです。


島宇宙と揶揄されてきたネットに漂うコンテンツを、拾い上げて、商業化の手伝いをする。


そういう、インキュベーション的な発想が、UGCシーンに立ち現れてきたことが僕はとても嬉しいんです。


今まで、UGCサイトといえば、個人が趣味の範囲で作成した作品を無料で公開し、大勢で共有するという目的が主流で、運営側も、そのコミュニティにおけるコミュニケーションにどのような価値を付加させていくか、ということに重きがおかれていたわけです。しかし、これからは、そういった側面とともに、個人が「ネット発、リアルへ」の道を容易に進むことができるアーキテクチャがどんどん出来上がってきて、「あのサイトで投稿していれば、自分もプロになれるかもしれない」という意識がネット上で醸成していけば、CoA(プロとしての活動を目標にUGCサイトに自分の作品を投稿している人たち)にとって大きなインセンティブになると同時に、出版社・編集者中心の”売れる”コンテンツ産業も、どんどん多様性が溢れるようになって、大人気至上主義と対立する「持続可能なロングテール型コンテンツビジネス」が可能になるかもしれない。


それが僕はとても楽しみなんですよね。無名の素人が、ネットの無料コンテンツを通じて世界をあっと驚かせることが容易な世界。その未来を先導するのが、これからのUGCサイトの在り方だと、今回の件で実感しました。


※追記:これを書いている途中に、pixivが初めての独立で新人賞型のイラスト大賞「P-1グランプリ」を開催すると発表しました。

そんな感じで今回は終わります。次回は「ネット発、リアルへ」のもう一つの可能性を見せてくれたネットコンテンツ配信の新しい在り方を開拓した、「nau」について書いていきたいと思います。